新説 鴎外の恋人エリス

新説 鴎外の恋人エリス (新潮選書)

新説 鴎外の恋人エリス (新潮選書)

留学先のドイツから帰国した森鴎外を追って日本まで来た女性が居たことは事実らしい。しかし、明治の時代女性問題は鴎外の将来を左右しかねないスキャンダルであり、プライバシーへの配慮もあって欧外自身はもとよりその一族から真実が語られることは無かった。
著者は法学者であるが、医療と法律の研究を進めると上で軍医であった森鴎外との接点があり、かつドイツで一定期間教鞭を取るという環境のなかで、人探しの原点である一次資料・・・日本で言う「戸籍」や「土地登記簿」を丹念に調べるという基礎的な調査・研究を重ねてたどり着いた結論は非常に重要かつもっとも真実に近いと言える。
本書を読んで感じるのは現在のテレビ番組の制作のあり方への疑問である。基礎的な調査を行うことなく推論で論理を構成し番組にする・・・著者はそうしたテレビ局の番組制作の姿勢をやんわりと批判している。
僕自身の仕事にも言えることだが、人探しは非常に大変だが、基本は丹念な一次資料・・・信頼できる資料を丹念に調査することである。推論を肯定する信頼できるデータを探し当てることは、どの様な論理にも欠かせないものである。そのことを忘れてはならないことを本書は改めて教えてくれた。